愛が冷めないマグカップ
2号と呼ばれたおじいさんは、神様の名に相応しいルックスを持った人だった。
ふくふくと太った身体をピチピチの作業着に押し込んで、グローブのような大きい手先で器用に細いヤスリを持ち、金属でできた何かを少しずつ慎重に削っている。
あゆみが今まで見てきた中で間違いなく一番立派な福耳に、ハムスターのようなほっぺた。頭にちょこんと作業着の帽子をのせている。あゆみと目が合うと、頑固オヤジ2号はにっこりと微笑んだ。
「本物の七福神みたい…」
あゆみは思わず呟いた。小林は隣でくっくっと笑いを堪えている。
隣にある機械を操作している頑固オヤジ3号は、機械についている計算機のようなボタンを凄まじい速さでピコピコと押し、何かの数値を確認すると、「うむ」とひとり頷いて、パイプ椅子に腰掛けた。ポケットから文庫本を取り出し、機械の様子をちらりと見ながらそれを読み始めた。
3号は細長い顔で、身体つきも細長いおじいさんだ。細い手足と首筋にはいくつものしわが刻まれている。
小柄な1号と太っちょの2号、細長い3号が3人並ぶと、あゆみの目の錯覚か、3人の後ろに眩い後光がさしているように見えた。
「この部屋では、特別な品物だけを扱っているんだ。
単価の高い試作品だとか、神様たちにしか出来ない細かい技術が求められるものばかりだよ」
小林が言った。
「頑固で自分勝手なオヤジたちを動かせる人は、この会社には数人しかいない。だけどね、君にもそうなってもらわなきゃ困るんだ。あゆみちゃんは、俺の補佐だからね」
こんな本物の神様のような人たちを、自分が動かすことなんて、本当にできるのだろうかとあゆみは思った。
ついさっきだって、1号に無視されたばかりだ。部長補佐という仕事は、とんでもなく難しいのかもしれない。
あゆみは泣きそうな気持ちになっていた。