生意気なキス
濃く塗られた口紅を落として、心のガードまで緩んだのか、気づいたら私は涙を出していた。


八年付き合った彼氏にフラれた時も、彼に新しい彼女がいると知った時も一度も泣かなかったのに。

泣けなかったのに。


それなのに、どうして私......、初対面の人の前で泣いてるんだろう。


人前で、しかも四つも年下の、よく知りもしない人の前で泣くなんて、情けない。

みっともないけれど、それでも涙はとまってくれなかった。


涙がとまらなくなった私を、巻き毛ちゃんは何も言わずに抱き寄せた。


いきなり何するのと彼の目を見て抗議したにも関わらず、目が合うと、やっぱり愛嬌のある顔で巻き毛ちゃんはふにゃっと笑う。


彼の愛嬌には相変わらずイラっとするけれど、不思議と最初の時よりも嫌悪感を感じなかった。


イラッとするような愛想を振り撒いてるのに、私を抱き締める腕は、意外と筋肉がついていて。

そして、居酒屋まではつけていたネクタイを外し、第二ボタンまで開けたシャツから見える肌に少しだけドキッとした。


なんだか、彼も男の人なんだと、今さらながらに実感する。


さっきまでは頼りない年下の男だと思っていたのに、今さら男だと意識させるなんてずるい。

それにさっきからグロスを塗った唇に視線を感じて、妙に気まずい。


そう意識してしまえば、恥ずかしくなってきたので、視線をそらす。








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