恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ

瞬殺したい現実

 私は色々な意味でイライラして、目の前に立つ青年をニラみつけた。理由はもちろん、大事な携帯電話を取り上げられ、灰まみれにされたから。
 青年は、私が通う高校の男子用制服である、白い半袖のワイシャツに二年生の証明であるワインカラーのネクタイをして、グレーのパンツを履いていた。だが顔は全く見た事がない。日の光など全然浴びた事がないような病的に白い肌や、老人かと見間違いそうな猫背、さらに隙間を縫うよう覗く瞳はあまりにも気味が悪くて、一度見たら忘れそうにないのに。
 今はさらに、目の前で爆発したお守りの中身がグレーのシミを作り、ひどくみすぼらしかった。
(あーっ!見ているだけで腹が立つ!)
私は携帯電話を折りたたんでスカートのポケットにしまうと、刺しそうな勢いで青年を指さした。青年は『あっ!』と小さな驚きの声をあげ、また携帯電話を取り上げようとした。私はその手を、体をひねってよけた。青年はヨロヨロとよろめき、あやうく通行人とぶつかりそうになった。
(キモイ上に、運動神経ゼロときたか。サイッテェー!マジ、ウザイ!瞬殺してやるかコノヤローっ!)
心の中で思いを叫んでいると、さらに怒りのボルテージは上がった。再び青年が携帯電話と取り上げようと手を伸ばしてくれば、スルリと交わし、彼がしたネクタイの結び目をわしづかんだ。
「あうっ!」
弱々しい叫び声を上げても気にしない。私は格闘家のように両手で彼の体をひっぱり上げると、今にも殺しそうな勢いでにらんだ。
「これ、アタシの携帯電話なの。あんたのじゃないの。勝手に触んないでよ!」
「でも、その携帯電話、悪い霊がついているんだ。使い続けたら君の命が危ない!」
「バッカじゃないの、アンタ!頭おかしいんじゃないの!映画や小説じゃあるまいし、そんな事あるわけないでしょ!」
「でも、本当なんだ。ウソじゃないよ!」
「だったら、証拠見せなさいよ」
「えっ!しょ、証拠?」
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