ずっと前から君が好き
"僕"から"俺"へ


「んーっ...ふう、やっと着いた。」

まだ朝方の人気の少ない駅のホームで、体を伸ばしながら呟いた。

空を見上げると、真っ青な青空に白いふわふわとした雲が浮かんでいた。


いい天気だな..。


心の中でそう思いながら、自分の右側に置いた、赤色のキャリアーバックに手をかけた。

前に歩き出そうとしたとき、ポケットに入れていた携帯がブーンブーンと震えた。


これは、メールか?


なんて思いながら携帯を開くと、待ち受け画面に

<着信メール 1通   母さん>

と表示されていた。


ボタンを押してそのメールを開く。

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from  母さん

sub  着いた?

本文  大丈夫?無事に着いた?
    今日から寮暮らしなんて心配だけど、しっかりやるんだよ。
    体には気を付けて、激しい運動はしないこと!
    高校生活、頑張って!
    ps:会えるといいね、唯ちゃんと。
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思わずメールを見て口角が緩んだ。

少し余計なことも書いてあったが…笑

相変わらず心配性の母さんに"わかったよ"と短く返信し、携帯を閉じる。

俺が通う高校は寮生活で、寮暮らしは確かに不安もあるけど、楽しみでもあるから自然と浮かれてしまう。

だけど...


"激しい運動はしないこと"


「はぁ~...」

頭に浮かんだ母さんの言葉に、深い深いため息を吐く。

昔から俺は体が弱く、外で走り回ったりするとすぐぶっ倒れたりするから、

学校での体育の授業は、いつも見学していた。

自分の体のことは分かっているつもりだけど、

男のくせに虚弱というのが、俺の何よりのコンプレックスだ。

それに、友達と外でワイワイ遊ぶこともできなかったし。

..まぁ昔の俺は"できない"というか、自分から誰かに声をかけるなんて、できなかったわけだが。

要するに内気な性格だったのだ。

でもそんな俺にも、仲のいい子が一人いた。

それはメールの中にもあった、唯という女の子だ。


立花 唯<たちばな ゆい>は、

俺、篠原 優也<しのはら ゆうや>の幼馴染みで、幼い頃から一緒に育ってきた。

内気な俺に比べたら、唯は気が強く、男の俺より男らしい性格の女の子だ。

…例えば、俺が体が弱いことを、他の男子に馬鹿にされていじめられていると、唯はすぐさま俺たちの中に入ってきて、あっという間に、いじめっ子たちを追っ払ってしまったりする。

でもそんな唯の優しさが、俺は苦しかった。


--女の子に守ってもらうなんて、僕はなんて情けないんだろう...。


助けてもらうたび、俺はそう思っていた。

だけど、唯とそんな風に毎日を過ごす中で、

俺は唯に...惹かれていったんだ。

そのことに気づいたのは小学生になった頃だったけど、

女の子に守ってもらっている自分には、そんなことを言う資格がない気がしてずっと言えなかった。


そうして言えないまま、小学4年の夏。


俺と唯が10才のとき、親の仕事の都合で俺は引っ越すことになり、俺たちは離れ離れになった。






それから7年経った今、俺は帰ってきた。

唯と一緒に育ってきた、この街に。


そして強くなって、あの頃の“僕”から、“俺”になったんだ。

そんなことを思うと、右手につかんだキャリアーバックに自然と力が入る。

俺は、駅の建物の間から差し込む、太陽の光を感じながら、重たいキャリアーバックを引いて歩き始めた。

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