ずっと前から君が好き
"すれ違う想い"
あれから俺は、唯を探し始めた。
だけど、なかなか見つけることができず、
春も終わり夏が始まってしまった。
この学校に通っていることは、両親から教えてもらっていたが、なんせ、この学校の生徒数は半端ではない。
そのなかで探し出すのは、俺が思っていた以上に簡単ではなかった。
そして8月も半ばにさしかかった。
「あっちぃー...」
「暑いなー...」
「....~~っお前らなぁ!」
蒼太が机をバンッと叩いて、椅子から勢いよく立った。
俺と銀は驚きながらも、下敷きでパタパタと音をたてながら、風を自分に送る。
そんな俺たちを見下ろす形で、蒼太は息を整えていた。
「蒼~。こんな暑い日に、そんな怒ったらもっと暑くなるよ~?」
だるそうに体を机の上で伸ばしながら、銀が言った。
俺と向き合うように座っていた蒼太は、自分の斜め右に座っている銀を、ギロリと睨む。
ビクッと肩を動かした銀は、ペン回しをしながら言い訳を始めた。
「だって、こ~んな暑いのに..座って勉強なんて、無理なんだもーん..よっと!」
「おぉ!銀、すげー!!何今の動き!?もう一回やって!」
俺は黙っていようと思っていたのだが、銀のすばやいペン回しのテクニックに圧倒されて、感想を述べてしまっていた。
ヤバいと思った時には遅く、蒼太は両手をボキボキと音をならしていた。
俺は命の危険を感じ、すぐさま口を開く。
「ごめんごめん、蒼太!だから、その手を下ろしてくれっ!」
蒼太がため息をついて言った。
「...ったく。お前らが"テスト近いから、勉強教えてくれ"って言うから、こうして暑い暑い教室の中、他のクラスメイトが帰ったあとも、残って教えてやってんのに、お前らは..。」
「ごめんってば、蒼~。」
メガネを外し、鼻を押さえながら怒る蒼太に、銀は軽く謝った。
蒼太も怒るのを諦めたのか、さっきよりも深くため息をついて帰り支度を始めた。
銀も"待ってました"と言わんばかりに、ウキウキと帰る用意をする。
そんな二人に苦笑いをして立ち上がると、机の上に置いてあった携帯のアラームが鳴った。
自分で設定したアラームだから、その内容は分かっていた。
それが嬉しい内容ではないことも。
気が進まないまま、俺は携帯を開く。
そこには、"--保健室にて診断--"とだけ表示されていた。
俺は小さくため息をついて、携帯をポケットにしまう。
銀が肩に鞄をかけながら聞いてきた。
「あれ、今日だったっけ?診断。」
「あぁ...。あーもうっ!行きたくねぇー!」
「まぁ、そう言うなよ。両親との約束だろ?」
ダダをこねる俺に、蒼太は困った顔で言った。
...そう。俺が体育の時間に倒れたことが、学校から両親のもとへ伝わり、それを知った両親に、俺はこっぴどく叱られた。
母さんは、「もう体育の授業さえ受けるな」と言ってきたが、俺がそれだけは嫌だと断り続け、"月に一度、自分の体の調子を確かめる"ということで、話はついたのだが...。
「それはそうだけどさぁ...またお前らとの時間が少なくなっていくような..。」
ボソッと呟いて二人を見ると、銀と蒼太はニヤニヤと笑っていた。
「えっ!?何々?俺、なんか変なこと言った?」
俺がそう聞くと、蒼太は笑いをこらえながら、"いや~別に?"とあやしく呟き、銀は腹を叩きながら言った。
「くっふふふふ!!まったく、優也はホントに...ぷっ...!」
「はぁ?意味わかんねーんだけど...。」
「まぁまぁ、優也は気にしなくていいのっ!そのままでいてくださいってことだよ!」
「....??」
意味の分からない発言ばかりする銀に、俺は再び首をかしげた。
「ゆ、優也。そろそろ...行かなくていいのか?」
笑いをこられきれなくって、顔をそむけながら蒼太が言った。
携帯を開いて時計を見ると、17:32と表示されてあり、
保健の先生に言われている時間は、17:40。
確かにもう行った方がいいな。
「あー...そう、だな。でも、気になるしな..。」
蒼太に返事するが、二人の行動の意味がどうしても気になる。
"行かなくてはいけない=だけど気になる"
そんなことを、頭の中でグルグルと考えた結果、俺は口を開いた。
「んんー...じゃあっ!!寮に帰ったら聞くから、ちゃんと教えろよ!」
「分かったよ!」
「じゃあ、また後でな。」
俺が宙を切って指さしながら言うと、銀はうなづきながら笑って、
蒼太は立ち直ったのかいつもの口調に戻っていた。
俺は"まったく..."と一言呟き、鞄を持って二人より早く教室を出た。