ずっと前から君が好き


次は昼放課で、昼飯を食べるために俺たちは教室に向かっていた。

三人でしゃべりながら廊下を歩いていると、前の方から数学の山岸先生が歩いてきた。


あ..やべ!銀を職員室に連れてこいって言われてたな..。
でも今、会うのを回避すればバレないんじゃないか?


頭の中でそう思い、まだ気付かない銀にボソッと教えようとしたときだった。

「ぎ...[ガシッ]うわぁっ!?」

「そうはさせないぞ、優也。バカは罪を償うべきだ。」

俺の手を掴んでそう言ったのは、真面目な学級委員の蒼太だった。

そしてヒソヒソと、廊下の端で立ち止まって話している俺たちに、銀はお気楽にもステップを踏みながら話しかけてきた。

「なーに、し・て・ん・の♪」

「いや?なんでもないぞ。」

銀の問いかけに平然と答えた蒼太は、ドンドン進んでくる先生との距離を、さらに近づけるように、"ほら行くぞ!"と爽やかな笑顔で銀の背中を押しながら、歩き出した。


もう駄目だ...。


そう諦めた俺の前で、何も知らない銀は自分で最後の地雷を踏んでしまった。

「蒼ったら、そんなに俺が好きなの~!もう~照れるじゃん!」

「なっ!?ぁ...ぁ..っ!!!」

ボゴォッ!

思わず目を閉じては見たが、俺は予想できていた。

それが何の音か...。次に聞こえてくるものは何か...。

そっと目を開けると、背中を押していた蒼太が拳を握りしめ、蒼太の前を歩いていた銀は頭を抱えてもがいている。

そしてもっと言うなら、倒れた状態のまま、首だけで後ろを振り返り、
"何するんだよ~蒼~!"と文句を言っている銀の目の前には、仁王立ちをした先生が立っていた。

「ひどいな~殴ることないのにー!俺らのこと言えないじゃん!ねぇっ優也?」

その状況に気付かない銀は俺に同意を求めてきたけど、俺はただ、
銀の後ろの人物を見ることしかできなかった。

「ちょっと...優也まで何黙って---ん...の..?」

俺が見ている方向を向きながら、銀は口を開いたが、その声はだんだん弱弱しくなっていって、銀は最終手段、"デレて誤魔化そう作戦"に出た。

「あ..あははは!せ、先生、こんにちわっ!今からお昼休憩ですかぁ?俺らもなんですよ~ご一緒にどうですか?なんちゃって~!....テヘッ☆」

「...なぁ、宮田~お前ぇ、俺の授業は居眠りしてよぉ、
次の体育は出るとかいい度胸だなぁ~!どういうことだぁ!?あ”ぁ”ん!!」

「...す、すみませぇぇぇぇん!!」

「お前は今から、俺と職員室行きだ!昼放課はないと思え!」

「うぎゃあぁぁ!!放せぇ~!!」

こうして銀の作戦もむなしく、山岸先生は蒼太に"ご苦労だったな"と一言残し、銀を連れて行ったのだった。



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銀が連れて行かれたため、俺と蒼太は二人で昼飯を食べていた。

ちなみに俺たちの弁当は、寮のおばちゃんたちが作ってくれたものだ。

この学校は、寮から通うか、家から通うか選べるから、こういうことからも違いが出てくる。


俺が弁当に入っていた、プチトマトを食べようとしたとき、
向き合って座っていた蒼太が言った。

「なぁ、優也。お前の会いたいって言ってた、唯って子のことなんだけど。」

「な、なんだよ?いきなり...。」

急に唯の話をされたから、思わず身構えてしまう。

「その子はこの街にいるんだよな?」

「えっ?あ、あぁ。」


蒼太の奴、何が言いたいんだ?


俺は遠回りな言い方をする蒼太に、戸惑いながらも答えた。

だが、蒼太はまだ険しい顔をして質問を続ける。

「この前のお前の言葉からして、その子はこの学校にいるんだよな?」

「この前の言葉....?」


"なんでわざわざここの学校にしたの?"

"実は俺、会いに来たんだよ"


「あぁ、そうだけど。...どうしたんだよ?さっきから。」

俺がそう聞くと、蒼太は真剣な目をして俺をまっすぐ見てきた。

「じゃあ、なんで会いに行かないんだ?」

「え...?それは...。」

「それは、何?」

「...っ!」

何もかも見据えたような蒼太の目から、俺は視線を外すことしかできなかった。

そのまま答えられずに下を向いていると、蒼太が呟くように言った。

「悪い。困らせようと思ったわけじゃないんだ。」

「え..。じゃあ、なんで?」

俺が再び視線を上げると、蒼太は卵焼きを切り分けながら口を開いた。

「..優也がどうしてすぐ、その子に会いに行かないのか気になってな。
聞くだけと思っていたのが、俺はどうも昔から自分が思っている以上に、相手のことを追い詰める言い方をしてしまうんだ。悪かったな...。」

「いや、大丈夫だ。俺もごめん、上手く言葉にできなくてさ。俺は...」

蒼太は"そうか"とうなづいたあと、俺の話を真剣な顔で聞き始めた。

「俺は、唯に会いたくてここに戻ってきたはずなのに、毎日を過ごしていく間に"今日はまだ"って、会うのを延ばそうとするようになった。
...そのわけはたぶん、知るのが怖くなったんだと思う。
"今さら会っても、あいつは俺のことを覚えてないかもしれない"
そう考えたら、唯のことを忘れて、蒼太と銀と楽しく過ごしてた方がいいのかもしれないって思えてきたんだ。
でも....俺はまだ....。」

「"忘れられない"...でしょ?」

「っ!?」

俺が言おうとしたことを、蒼太ではない声が言った。

気付けば俺たちの近くに、銀が立っていた。

「説教は終わったか?」

「うーるーさーいー!」

銀は蒼太にからかわれて、いつもみたいに笑ってそう言うと、蒼太と同じ真剣な顔をした。

「なんで...」

"なんでわかった"と聞こうとしたのかが分かったのか、銀は小さく笑って、

「だって優也、唯ちゃんが好きって顔に出しまくってるもん。」

と言い切った。

「....!!!!バ、バカッ!そんなこと!!」

「ううん、そんなことあるんだよ。優也さ、自分では気づいてないんだろうけど、教室を出て廊下歩くときとか、どっかのクラスが体育でグラウンド使ってるときとか、無意識に目で探してるんだよ?」

「な、なにを...?」

「唯ちゃんを、だよ。」

「....はぁぁぁ!?」

俺はその言葉に、火が出そうなくらい、顔が熱くなったのを感じた。

そしてそんな俺を見て、真剣な顔だった二人は大笑いし始め、

蒼太に
「優也ってけっこう鈍かったんだな...。」
と言われ、
銀に
「優也、恋してるぅ~!」
とバカにされた挙句、教室で大声を出したため、その場にいたクラスメイトたちにまで笑われたのである。


こんなに恥ずかしい気持ちになったことはない...。


俺は恥ずかしさのあまり顔を上げれず、椅子の上で足を組んだ。

「あーあ。でもまぁ気にしない気にしな~い!」

「俺たちも協力するからな。」

頭上から聞こえてきた声に、少しだけ顔を上げて、二人を見る。

俺と目が合うと、銀と蒼太はいつもみたいに笑ってきた。

俺は椅子から立ちながら口を開く。

「...ったくよ~お前らのせいで悩んでたことも、吹っ飛んじまったよ!!」

「でも、最初に戻ったでしょ?」

そう言った銀の言葉は、確かにそうだった。

だから、俺は

「そうだな!」

と言って、差し出された二つの手に自分の手を重ね、


こいつらには、ホントかなわないな~


なんて思いながら、笑った。



二人が教えてくれたことは...

"たとえ、唯が俺のことをもう覚えていなくても、好きなことには変わりない"ってこと。

だから俺は、会いに行こうと決意した。

俺には、唯に伝えたいことがたくさんあるから。



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