ずっと前から君が好き
~蒼太side~
俺と銀は、立花を見送ったあと、急ぎ足で寮に戻った。
寮にはまだ優也の姿はなく、俺は夜ご飯の準備を始めた。
「ねぇ蒼。案外、面白い子だったね。」
俺は、後ろの方から聞こえた銀の声で、料理をしていた手を止めた。
持っていた包丁をまな板の上に置いて、銀の方に顔を向ける。
「それって、立花のことか?」
「そうそう!....っていうかさぁ、蒼...。」
笑顔でうなづいた銀だったが、俺の顔を見て、だんだんと険しい顔になっていった。
なぜそんな顔をするのか、俺には分からない。
「な、なんだ?その顔は...。」
「蒼さぁ、本当女の子と仲良くしないよね~。」
「なんで今、そんな話になるんだっ!!」
俺は、丸い机に笑いながら頬杖をついている銀にそう怒鳴った。
銀はニヤニヤしながら、口を開く。
「だって、唯ちゃんのことも苗字で呼んでるし、クラスの子ともあんまり話さないじゃん!それってなんか意味でもあるの~?"好きな奴以外とは話さない!"みたいな??」
「ちがっ!!そんなんじゃない!ただ俺は...そういうのに、興味がないだけだ!!」
「ぷっはははっ!そうなんだ~♪」
「っ!!銀、お前な..いい加減にしないと...!」
俺は前に両手を出し、拳を握った。
もう何回も体験している銀なら、そのポーズが何を示しているか分かるだろう。
そして強く睨むと、銀は青い顔をして言った。
「あ....なんちゃってー!!ごめんごめん!冗談だから!だからその手を下ろして~!!!!」
必死に弁解してくる銀だが、俺の怒りのボルテージはずっと前に振り切っている。
だから俺はまだ、拳を下ろすなんてそんなことをする気はまったくない。
「...うるさいぞ、銀。お前には何度も恥ずかしい思いをさせられたからな。一度ここで痛い目に遭った方が良いんじゃないか?...なぁ、銀....?」
俺がゆっくり近づいて、拳に力を入れ、銀の顔に降り下ろそうとしたときだった。
「や、やめろ~!!!」
「ただいま~!!」
銀の声に重なって聞こえたのは、まぎれもなく優也の声だった。
「帰ってきたね♪」
「あぁ。」
楽しそうに笑って言う銀に、俺は短い返事をした。
銀と目を合わせていると、リビングに右肩に鞄を抱えた優也が入ってきた。
優也が自分の部屋に荷物を置きに行っている間、再び銀に目を向けると、ゆっくりと銀の口が動いた。
"作戦開始だね"
銀の口パクで、俺たちは動き出した。
「おかえり、優也。遅かったな?」
「....あ、えーっと、その、診察が長引いちゃって。」
優也は分かりやすい奴だな。嘘ついてんのがバレバレだ。
そう思っていると、銀も同じことを考えていたようで、口角が少し上がっていた。
ニヤニヤしていた銀は、椅子から跳び跳ねるように立って、少し声のトーンを落として言った。
「そっか~♪....ねぇ、優也、聞いてもいい?」
「ん?何?」
優也が、首をかしげる。
何を言うつもりだ?銀の奴。
心の中でそう呟いたときだった。
銀が真剣な顔つきになって、声を出した。
「優也はさ、何でそんな無理して笑ってるの?」
「----え....?」
銀のその一言で、優也は目を大きく見開いた。
そして、焦ったように口を開く。
「...な、なに言ってんだよ?別に無理してなんか」
「優也、気づいてるか?お前、さっきから俺たちの目見てないんだよ。」
「...っ!?」
"無理してなんかない"
そう言おうとしたんだろうが、俺はそれを遮るように言った。
なぜなら、これ以上嘘を吐くと、優也が壊れてしまいそうに思えたから。
俺たちは座り込んだ優也に近づき、学校でのことを話始めた。