管狐物語
桜を送り出した後、次郎はまた座り、お茶を飲んだ。
烈は、座っている次郎を横目で見て、腕組みをする。
「…次郎さん。
焰に何言ったんだ?
あいつが片付けやるなんて、明日槍でも降るんじゃねぇか?」
ことんと湯のみを置いて、次郎はため息をついた。
「さすが皆の兄貴分です。
よく分かってますねぇ」
「あのな、もう何百年の付き合いだよ。
どういう奴らかなんてこと、嫌でも分からざるを得ないだろ…」
「…そうですね。
私なんて、皆さんの幼少期の事まで知ってますし」
ふふっと笑い、突然次郎はすっと真面目な顔になる。
「…焰に、蛍様の事を忘れろ…と言いました。
そうしたら、焰が怒って、一気に片付けてくれました…」
その言葉に、烈はぎょっとする。
「なっ!
んな事言ったのかよ!
あいつが怒らない訳ねぇだろう⁈
なんで…」
「私達、管狐に大切な事は、切り替える事です!
前の主に心を寄せたままでは、だめなんです!
そんな事は、烈、貴方だって分かっているでしょう…」
烈の言葉を遮るように、次郎は言葉を強め、最後は悲しそうに、語尾を弱める。
はぁ…と烈は溜息をつき、どかっと胡座をかいて、次郎の前に座り、片手で頭を掻いた。
「…だが、次郎さん。
焰にそれは酷だろ…。
「あんな事」があって、忘れられる訳がねぇ。
俺だって、完全に切り替えられた訳じゃねぇよ。
あんただって…」
「…酷なのは分かっています。
焰が忘れられない事も…」
夜は深く色を増していく
静寂が広間に広がっていった…