とろける恋のヴィブラート
「あ、あの……私」


「お前はほんとに馬鹿な女だ」


「え?」


 見ると辛辣な言葉とは裏腹に、御堂の表情は穏やかだった。口元に笑さえ浮かべている。


「ほんと、お前には負けたよ。初対面の親父にまさか直談判持ちかけるとはな……もう、お前とは会わないって決めてたのに」


「勝手にそんなこと決めないでください、私も……必死だったんです」


 御堂を失いたくない一心だった。そんな自分の気持ちに応えてくれるように御堂もエドガーに頭を下げた。それが嬉しくて、奏は自身を鼓舞することができたのだ。


「お礼を言わなきゃならないのは俺だ。お前のおかげで自分の気持ちに正直になることができた。それに改めてわかったことがある」


「わかったことって……?」


「……お前のことが好きだ。誰よりも、大切な存在だってこと」


 御堂の言葉が終わるか終わらないかのうちに、お互いの身体が引き寄せられ、そして抱きしめ合った。御堂の熱が全身にじんわりと身体に染み渡っていく。
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