恋の授業。


状況が全然飲み込めない。

目の前には、ワタシの腕をつかんでいる
知らない男の人。



「エッ、エッ!?」



男の人の顔を見ても、何が何だかわからない。



「……」


「…………?」


「着きましたよ、駅。」


「え?」



駅…?



「乗り過ごすところでしたので。」



そう言いながら、何故かワタシの鞄を差し出す。



「……」



ワタシの顔を見て目の前の男の人が
フ、と微かに笑った。



「ここ、東横浜です。
君が熟睡していて全く起きる様子がなかったので、起こしてみたのですけれど…
それでも起きないので、引っ張って降りたんです。」



この人の言っていることを聞きながら周りを見てみると
電車から降りた人たちが改札に向かって歩いている。

確かにここは、いつものホームだった。



でも、この人誰だっけ?
なんでワタシのこと知ってるんだろう。
え……
怖い…



「あ、あり、がとう、ございました…」



電車の中との温度差に急に寒気がして
身体がブルブルっと震えた。


同時に、現状を理解したワタシは
ワタシの知らない人がワタシの最寄り駅を知っているという気持ち悪さに
無表情で一言だけ返すと逃げるように改札へ向かった。



何だあの人…?
知り合いだっけ?
でもあんな大人の男の人で知り合いなんていないし。
でもあのメガネ、なんか見たことあるようなー……


…思い出せない……


「まーいーや」



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