バターリッチ・フィアンセ
「――――織絵?」
「…………っ! はい!」
仕事の後、今日も二人で囲む小さな食卓。
昴さんに声を掛けられてはっとした私は、箸でつかんでいたほうれん草が、ご飯の上に落ちていることに気付く。
もしかして……私、今一瞬寝てた?
食事中に寝てしまうなんて、しかもそれを昴さんに見られていたなんて。
私は慌てて食事を再開させ、口をもぐもぐと動かしながらちらりと昴さんを見る。
「その調子だと明日もやばそうだな」
……う。食べていたものが、喉の辺りに詰まりかける。
昨日よりもたくさんの仕事をこなした今日、はっきり言ってもう私の体力は限界を迎えていた。
仕事が忙しい分、家では昴さんとゆっくり会話を楽しみたい気持ちはもちろんある。昨日はぐらかされた話の続きだってしたい。
だけど、今の私はこの食事を終えたら、シャワーを浴びて、一刻も早く布団にもぐりこみたい……そんな気持ちの方が勝ってしまっているのが正直なところ。
「明日も……三時半起き、ですよね?」
「当たり前だろ。寝坊したらお仕置きな………あ。」
言いながら空になった食器を重ねていた昴さんが、何かを思い出したかのように動きを止める。
「……今日の分がまだだった」
「え」
今日の分……それはまさか、“お仕置き”のことでしょうか……?
本能的にピンチを感じ取り固まる私を、昴さんは楽しそうに瞳を輝かせて見つめていた。