バターリッチ・フィアンセ


「……もっと近くに来てよ」


今だって30センチくらいの距離しか開いてないのに、昴さんが甘えた声でそう言う。


「お、お断りする権利って……」

「あるわけないだろ、お仕置きなんだから」


ですよね……。

私は内心がっくりとしながら、丸めた身体のまま昴さんの方へにじり寄った。


ち……近い。

それに彼の周りには、自分と同じシャンプーの匂いと彼特有の甘い香りが混じった、フェロモンみたいなものが漂っていて、頭がクラクラしてくる。


「……織絵の中ではさ」


そっと頬に触れられて、びくりと身体が強張る。



「俺ってイイ奴? 悪い奴?」



そう尋ねる彼の目は、あのときと同じ……少し不気味な、暗い色。

今私の顔を優しく包んでいる手を首筋に移動させて、そのまま締め上げることだって、厭わないように見える。


それでも逃げたいという気持ちにならないのが、自分でも不思議。

謎だらけのこの人を、もっと知りたいという好奇心が勝っている。

これが恋かと聞かれたら、すぐにうんとは言えないけれど……



「……悪い奴だと思ってたら、こんな風に隣に寝たりできません」



彼の瞳をじっと見つめて、私は言った。


いつか昴さんのすべてを知ることができたなら、そのときにはこの気持ちが、恋に変わっている気がするの――。


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