君と歩く未知
 次の日の放課後アタシはカズくんを美術室に呼び出した。
今日はカズくんと一回も顔を合わせていない。
お弁当も一緒に食べていないし、休み時間にも会いに行っていない。
カズくんもきっとアタシの異変に気が付いているよね。
 アタシは美術室の机の上に腰掛けた。
美術室には神様がいるって思っていたのにな…
やっぱりそんなことはなかったんだね。
ここでアタシとカズくんが出会ったのも、数々のかけがえのない幸せな日々を過ごしたのも、一つになって愛し合ったのも…全ては運命なんかじゃなかったんだ…
本当は全てが偶然の積み重なりだったんだよ。
そう思ったらなんだか悲しいね。
アタシは美術室の外に出て、カズくんを待つことにした。
 外にはキレイな夕日が広がっていた。
…校庭で走る陸上部が元気の良い声を出している。
…校門までをゆっくり歩いているカップルは腕を組んでいる。
…その上を飛ぶ鳥はアタシの知らない街に帰る。
ねぇ、みんな幸せ?
みんなそれぞれ形が違っても、色が違っても、大きさが違っても…幸せを持っているよね。
きっと、アタシも今は辛くても幸せに出会えるよね?
この赤ちゃんも…きっと天国で幸せに出会えるよね?
そしてカズくんも…
 「弥生、遅れて悪かったよ…待った?」
アタシは慌てて振り返った。
そこにはいつもどおりの優しい笑みをしたカズくんが立っていた。
アタシはニッコリとカズくんに笑いかけた。
カズくんはアタシを後ろから抱き締めた。
「今日はつわりがひどかった?弁当食べなかったんだろ?…あっ、それで?今日は何の話?…赤ちゃんのこと…?名前とか?どーする?」
カズくんは重い雰囲気を隠すようにわざと明るい声で明るい話題を出した。
アタシはそれに気が付いて胸が痛くなった。
アタシは首をただ横に振った。
「じゃあ…何の話…?」
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