君と歩く未知
 カズくんは、アタシを強く抱きしめてくれた。
アタシも、それに負けないくらい強く抱きしめ返した。
さっきまでとは違う、暖かい涙が、アタシの頬をつたって、カズくんの肩に落ちた。

「弥生…オレは弥生のことが好きなんだよ。弥生がいなきゃ、オレの生きる意味がなくなるんだよ。だから、死ぬなんて言うなよ…な?」
カズくんはアタシの耳元でそう囁いた。
アタシは、泣きながら、ただ頷くことしかできなかった。
「弥生が昔、どんな不幸に襲われたのかオレにはわからないけど、頼むからもう過去ばかり見るのはやめてくれ。オレと一緒に明るい未来を探そう」
アタシはカズくんの胸に埋めていた顔を上げて、カズくんの目を見た。
「本当に?」
カズくんはアタシから目をそらさず、強く頷いてくれた。
「もし、アタシが風俗嬢とかでも?」
カズくんは頷いた。
「もし、アタシが殺人犯だったら?」
カズくんはにっこり笑って言った。
「そのときは、地球の果てまで二人で逃げれば良いよ」
アタシは目に涙を溜めたまま、あと一つだけ尋ねた。
「じゃあ…もし、そんなアタシに殺されちゃったら?」
カズくんは少し驚いた目をしてすぐ、笑みを含んだ声で言った。
「弥生になら、殺されてもいいけど。だけど、弥生は絶対にそんなことする子じゃない。オレにはわかってる」
カズくんは真っ直ぐにアタシの目を見つめてそう言った。
アタシの目から、幸せの涙が一つ落ちた。
< 30 / 202 >

この作品をシェア

pagetop