君と歩く未知
 アタシとカズくんは直紀くんと美和ちゃんがふざけている隙に、そっとキスをした。
短くて、涙の味がするキス…
切なくて、ささやかで、それでも愛しくて…
アタシたちは急いで唇を離し、直紀くんたちの方を見た。
二人はまだヘッドロックの真っ最中。
どうやら二人にはバレていないようで、ほっと胸を撫で下ろした。
カズくんの目を見ると、ほんの少し涙で濡れているようだった。
アタシはカズくんの手をぎゅっと握り締めた。

 あの日のアタシはなんて幸せ者だったんだろう…
あの頃のアタシは何ごとも全て、カズくんが中心だった。
学校に行くのは、カズくんに会えるから。
笑うのは、カズくんも一緒に笑ってくれるから。
そう、あの頃のアタシの毎日はカズくんを中心に回っていたんだ。
…いや、それは違うかも知れない。
「あの頃」だけじゃなくって、きっと「今」もアタシはカズくんを中心に生きてる。
電車に乗るのは、カズくんを捜すため。
街を歩くのも、カズくんを捜すため。
そんなのバカみたい?
でも、今日もアタシはそうやって生きるよ。
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