その輝きに口づけを

プロローグ2 再会(水流視点)


「誰か、誰かいませんか!」
助けを求めている割には、冷静で、凛とした声。聞かないふりの難しいその声に引かれて、ぼくは駆け足でその路地を曲がった。――そしてそこで見た予想外の光景に虚を突かれ、そのまま思わず足をとめていた。
まず目に入ったのが、ひらひらしたミニスカートと芯の通った佇まい。ヒールを身につけた華奢な女性が、危なげなく男を抑え込んでいた。暗がりで判然としないが、男は小柄というわけではなさそうだ。それなのにどういう原理か、手首と肘を固められて、うつぶせのまま身動きも取れないでいる。
「大丈夫ですか」
おそるおそるかけた声。はっと顔をあげたその女性の瞳がわずかに揺れ、次の瞬間きりりと引き絞られる。
「ありがとうございます。取り押さえたのはいいけれど、どうすればいいのか分からなかったので」
「この男性は、知り合いですか?」
「いいえ、通りすがりの痴漢です。いきなり抱きつかれたので、とりあえず投げたのですが」
何でもないように肩をすくめてみせる。平然とした声色と表情。
でもぼくはあの一瞬を見てしまった。
ぼくを振り返った瞬間のすがるような目。本人が恥じて押し殺してしまった一瞬の揺らぎ。
その時、彼女は泣きそうに見えた。

それが7年ぶりの再会だったと判明するのは、その直後のこと。
丸みを帯びた垢ぬけない女子大生は、引き締まったあごにきりっとした目を持つ美人へと姿を変えていた。
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