その輝きに口づけを
2 水流の心情

プロローグ1 出会い(光視点)


 地元の有名人もたまに見かける、『イタリアン石畳』。そのネーミングからなんちゃってイタリアンかと思いきや、実際はなかなか本格的なレストランだった。蛇足だが、わたしがワインの味を覚え始めたのもこの店で働いたことがきっかけだ。
 その店で働き始めて1か月ほど経ったときのことだった。ランチの片付けも終わり、フロアには誰もおらず、バイト上がりまでの残り30分の時間をだらっと掃除しながら過ごしていたところを店長に呼び止められた。
 振り返ると、体中から花でも飛んでいそうな印象の穏やかで、どこか幼い雰囲気の青年が店長の隣でにこにこ笑いながら立っていた。
 圧倒されるほどではないが、平均よりはずっと高そうな身長に、さらさらの茶色い髪。人懐っこく、適度に気の抜けた話し方から、ハンサムなのに話しやすかった。連絡先を交換するほどの興味もなく、学部すら聞いたそばから忘れた。けれど、当時まだ少し男性が苦手だったわたしにとって、気の置けない彼の存在は心地よく、女友達とは違うこの関係が、とても嬉しかった。

 再会した彼は、髪の色以外は変わらないように見えた。
 穏やかだとしか思っていなかった彼の隠れた一面を引きだしてしまい、うろたえる羽目になるのは少し後の話。


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