ポーカーフェイス

 尋翔は、自分の足に視線を落とすと、フゥと溜息を吐いてから言葉を紡いだ。


「お前の憎たらしさは、マジで折り紙つきなのな」

「まぁな」


 右側の兄も、弟と同じく清々しい顔をしている。


「威張んな、バカ」

「るせぇや、バカ」

 
 久方のこのやり取りに、2人共が同じ気持ちを共有していた。

 口元に笑みを湛えたままの兄弟が、肩を並べて家に帰るその光景は、微笑ましい事この上ないが、会話が会話である。



「………ホント、心臓止まるかと思ったんだぞ」

「は?」


 唐突に呟いた尋翔は、真剣な顔をしていた。


「お前、俺に連絡寄越さなかったろ」


 前を向いたまま、尋翔は右側に声を掛けた。


「あ?……あーまぁ、な」


 何となくバツ悪そうに悠翔は視線をそらし、声を発した。


「隣から物音1つ聞こえないと思ってよ…」


 声のトーンを落とした尋翔は、事務所へ電話した事、ここへ来る前の自分の心境、ここへ向かうきっかけなど、これまでの1連を悠翔に話した。


「………ホント、そーゆーとこ変わらんねぇよな」

「そーゆーとこってどーゆーとこだよ?」


 弟のクセに、自分を下に見ているような言い方をする尋翔にイラついた悠翔は、不服そうな顔をして尋ねた。


「ん?……人に心配かけまくるとこだよ」


 数センチしか違わないが、悠翔の方が身長は高い。

 尋翔はそんな兄に、視線だけを送った。

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