先輩上司と秘密の部屋で
「……え……」
小さな声をもらした杏奈は、まるで白昼夢でも見ているかのような感覚に陥った。
今まで思い出の中にひっそりと存在していたその男が、デスクを挟んだ向こう側の席に、腰を下ろそうとしていたからだ。
指通りの良さそうなサラサラの黒髪と、吸い込まれてしまいそうなくらい深いオニキスの瞳。
整った鼻筋は高く、薄い唇はしっかりと引き結ばれていて、意志の強さが伺える。
杏奈にとっては衝撃的な再会だった。
なぜなら黒谷嵐士とは、もう六年近く顔を合わせていない。
隼人とは別の大学に進学した黒谷嵐士のことを、杏奈はもうほとんど忘れかけてしまっていた。
(まさか同じ会社に……就職してたなんて)
懐かしい思いが一気に込み上げてきて、杏奈は自然と口元を緩ませる。
隼人が白のイメージなら、嵐士は間違いなく黒だ。
でもその漆黒に、冷たさは一切感じられない。
昔よりもだいぶ大人びた印象を受ける嵐士は、もともと精悍だった顔つきにますます磨きがかかっている。
伏し目がちだった奥二重の双眸がゆっくりと杏奈を捉えたその瞬間、思わずひくっと喉を鳴らしてしまった。