先輩上司と秘密の部屋で
「ふふ。いい男で驚いた? 彼……黒谷くんはね、杏奈ちゃんのお兄さんと並んで成績優秀だから、営業の二大エースって呼ばれてるのよ。入社してたった二年で二人揃って主任に抜擢されるなんて、ほんとすごいのよ」
隣の美那がすかさず耳打ちしてきて、杏奈は表情を強ばらせる。
目が合っていたのは、ほんの一瞬だけだった。
興味がないように逸らされてしまった視線に、杏奈の心は侘しさでいっぱいになっていく。
(そうだよね。一度しか話したことのない私のことなんて……いちいち覚えてるわけない)
前下がりのミディアムボブは、あの日から、杏奈にとってお気に入りのヘアースタイルになった。
多少色は明るくなったものの、六年前からそれだけは変わらない。
「おい黒谷、お前確か朝礼出てなかったよな。この子、今日から同じチームの一員だから」
「……は、初めまして。新入社員の小白川杏奈です。よろしくお願いします」
嵐士の記憶の片隅にも存在していない事実に、杏奈の表情が徐々に暗くなっていく。
パソコンに向かっていた嵐士の目は、不機嫌そうに鋭く細められていた。