先輩上司と秘密の部屋で
「美那さん、お先に失礼します」
「ああ、杏奈ちゃん、お疲れ様。今日はゆっくり休んでね」
帰り支度を整えた杏奈は、出先から戻ったばかりの美那に挨拶を済ませ、オフィスを後にする。
そのまま更衣室にキャリーバッグを取りに行こうとした途中で、資料室にひとりで入っていく隼人の後ろ姿を見かけた。
「……お兄ちゃん……」
二週間ぶりに隼人と再会したこともあり、杏奈の心はもとの家に帰りたい気持ちで溢れかえっている。
だが、どういうつもりなのか聞きたいこともたくさんあった。
杏奈が営業に配属された経緯や、皆の前で彼氏と同棲している話を勝手にしたこと。
せっかく嵐士とうまくやって行くはずだったのに、杏奈は隼人の愚行のせいで、最悪なスタートを切ってしまった。
それさえなければ、杏奈だってさっさと隼人に謝りたいし、好きなだけ甘やかしてほしいとさえ思う。
ネットカフェに泊るなんて滑稽な行為は、現実的に考えれば続くはずもなかった。
杏奈は全て問いただそうと一大決心し、隼人の後に続く。
だが資料室のドアに手をかけた瞬間、とんでもない光景が杏奈の目に飛び込んでいた。
「……好きなの。小白川くんのこと」
まるでドラマでも見ているような、そんな錯覚に陥る。
誰もいない、ひっそりと静まり返った資料室。
そこにいたひと組の男女は、これでもかというくらいに、身体を密着させていた。