先輩上司と秘密の部屋で

まさか隼人が断ると思わなくて、杏奈は少々面食らってしまう。

隼人を見直すべき英断だと、思わず涙が出そうになるくらいの感動を覚えていた。


「なんで!? 私ってそんなに魅力無い?」

「いや……」


それでも諦めずに隼人に詰め寄る女性の様子を、杏奈はハラハラしながら見つめる。

出て行って助けようかと思ったその瞬間、隼人は誰もが驚く衝撃の理由を口にしていた。


「俺今……かけがえのない大切な人と、一緒に暮らしてるから。その人を傷つけるような真似だけは絶対出来ないんだ」


事実上の同棲宣言に、女性は言葉を失い茫然自失の状態になる。

杏奈も同じくらいの衝撃を受け、大きな目を限界まで見開いていた。


(ど、どどういうこと!?)


杏奈が家を出て行ったのは、たったの二週間前のこと。

にもかかわらず、隼人は今、誰かと住んでいるというのだ。

隼人は基本的に女性を家に上げたりしないし、住んでる場所も徹底的に口外しなかった。

それは杏奈が住む前から徹底していたことらしく、だから杏奈も隼人を狙う女の人に悩まされずに、のびのびと一緒に暮らしてこれたのだ。


(お兄ちゃんがそこまで大切にする女の人って……一体誰なの……)


昔から秘密主義である隼人のことを、杏奈は心の中で面白くなく思っていた。

人のことは詮索するくせに、自分のことは何も教えてくれない。

杏奈は今日知ったその事実に、どうしようもないくらいの憤りを覚えていた。

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