先輩上司と秘密の部屋で

このマンションには、入口とエレベーター、そして家の前と三重のロックが敷かれている。

だから隼人の住む所が低層階でも、セキュリティは万全と言っても過言ではない。

財布から取り出したカードキーをしみじみと見つめながら、杏奈は深いため息をついていた。


(まさか……こんなに早く使う時が来るなんて……)


杏奈がこれを持っているのも、隼人の強い意向だ。

二週間前家を出る時に返そうと思ったのだが、“いいから持っていって”と無理やり持たされてしまった。

もしかしたら、出戻ることを予想されていたのかもしれない。

なんだか複雑な気持ちを抱きつつ、杏奈は慣れた手つきでカードのスキャンを開始する。

変わっていたらどうしようと戸惑いながらも、以前と同じパスワードを震える手で打ち込んだ。

やがて入口の扉が自動で開くのを確認すると、杏奈の緊張が緩和され、表情にも幾分余裕が出てくる。

エントランスを抜けた先に見えてくるのは、フロントやライブラリースペース、ソファーブース等の共有ゾーンだ。

そこから奥のエレベーターホールまで足早に進んだ杏奈は、そのうちの一基に乗り込んだ瞬間、ようやくホッと一息つくことが出来ていた。

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