先輩上司と秘密の部屋で
しかし安心したのも束の間、杏奈は重大なミスに気が付いてしまう。
隼人は確かに、同棲を匂わせるような発言をした。
したがって先ほど帰って来た人物が、隼人とは限らないのだ。
すでに隼人の部屋の前までにたどり着いてしまった杏奈は、深呼吸を繰り返しながら、必死で気を落ち着ける。
いきなり同棲している女性と鉢合わせしてしまっても、平常心を保てる自信がない。
しかし自分の目で確かめたいというのも、杏奈の本音だった。
もし本当に隼人のことを射止めた女性がいるならば、それはとてつもなく喜ばしいことだ。
杏奈は妹として、隼人の幸せを常日頃から願っていた。
隼人が恋愛できないのは手のかかる自分のせいだと、思い悩むことさえあったのだから。
杏奈は意を決してインターフォンに手を伸ばす。
押した後そわそわしながらカメラを見つめていると、中から何やら大きい音が聞こえてきて杏奈はギョッとした。
かなり不審に思いつつ、杏奈はドアが開くのを待ち続ける。
やがて施錠が外れる音が、辺りに大きく響いた瞬間――。
「……え?」
最初に目に飛び込んできたのは、ネクタイを緩ませた男らしい首筋のライン。
杏奈の瞳には、予想だにしない人物の姿が映っていた。