先輩上司と秘密の部屋で

指通りの良さそうな黒髪を、目前でサラリとかき上げるその人物。

黒谷嵐士が隼人の部屋から出てきた瞬間、杏奈は驚きを通り越して絶句してしまった。

杏奈が東京に出て来てから、彼は一度もこの部屋を訪れたことがない。

隼人との友人関係が継続していたことすら、杏奈は今日会社で再会したことにより、初めて知り得たのだ。

吸い込まれそうなほど深く澄んだ漆黒の瞳が、射抜くような強い視線で杏奈のことを見下ろしている。

ワイシャツのボタンは三つ程開けられていて、その筋肉質な胸元から立ち上る嵐士の色気は相当なものだった。


「あっ、あ……の……」


杏奈は頬を朱色に染めあげながら、必死で言葉を絞りだそうとする。

だが威圧的な嵐士の雰囲気に押され、思わず足を一歩後退させてしまった。

それを見て不機嫌そうに眉を顰めた嵐士は、苦々しい表情でため息を吐き出している。




「――中、入れ」

ややあって聞こえてきたのは、抑揚のない低い声。

大きく開かれたドアのプレッシャーに、杏奈は押し潰されそうになっていた。

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