先輩上司と秘密の部屋で
「本当に……ごめんなさい……」
縋るような声で嵐士に謝りながら、杏奈は今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。
彼の着ている高そうなワイシャツには、杏奈のファンデーションがしっかりと移ってしまっていた。
洗えば落ちそうだが、急いでクリーニングに持って行った方が確実だろう。
すぐに脱いでほしいと伝えようとした杏奈は、咄嗟に嵐士のワイシャツの裾を掴んでいた。
「……あっ」
目の前で起きたあっという間の出来事に、杏奈は驚きの声をあげる。
嵐士は杏奈の拒むようにして、思いきり手を振り払っていた。
「――触るな」
相変わらず顔を背けたままの嵐士が、唸るような声で杏奈を威嚇してくる。
その瞬間、杏奈の胸に鋭い痛みが走っていた。
こんなことをしでかしてしまったら、鬱陶しく思われてしまうのも無理はない。
こちらを見ようとしない嵐士の背中を、杏奈は唇を噛みしめながら見つめていた。
(何で私……嫌われるようなことしか出来ないんだろ)