先輩上司と秘密の部屋で

「お兄ちゃん、いい加減離してっ」

「……やだ」


子供のように駄々をこね始めた隼人に、杏奈は思わず絶句してしまう。

“酔うと幼くなって可愛い”が武器になるのは、女の子限定の話だ。

いくら隼人が女に負けないくらいキレイな容姿を持っていても、杏奈にとっては耐え難い光景に変わりはない。

それどころか、まさかこれを隠すために今までお酒嫌いを装っていたのではないかと、隼人を疑わずにはいられなかった。


「……隼人、さっさ飲め」


やがて聞こえてきたため息混じりの低い声に、杏奈は肩を揺らして反応し顔をあげる。

嵐士は厳しい表情のまま、水の入ったグラスを隼人の腕に押し付けていた。

隼人はやや不満げな顔をしたものの、素直にそのグラスを受け取っている。

これで助かると思った杏奈が、甘かったのかもしれない。


「飲めない」


杏奈の腰に、再び隼人の手が回ってくる。

そのままなぜかグイグイとグラスのふちを唇に押し付けられ、杏奈はほとほと呆れ返ってしまった。

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