ラブソングは舞台の上で

「新人の間はあまり自由が利かないだろうし、金もないし、この町へ会いに来ることも頻繁にはできない」

「はい」

「だからたぶん、今後俺たちが付き合っていくには、とても苦しい思いをすることになると思う」

「……うん」

これはまさか、別れ話?

わざわざ観客の見守る舞台の上で、私を振ろうというの?

そうして私を振られた女として晒し者にして、何になるの。

結婚式は結局ブレイクされましたとか言って、みんなで笑って楽しむの?

それが、前日に怪我をしてステージの質を下げた私への報復なのだろうか。

ネガティブな考えが頭を支配し、心がズキズキ痛みだす。

気を抜くと泣いてしまいそう。

晴海は私の表情の変化に気付き、一瞬すまなそうな顔をした。

そして、握っていた私の左手の指に、軽くキスをした。

客席が、微かに沸く。

「最初の一年で、社会人として一人前になります。次の一年で明日香を迎えるための準備をします。その間も、できるだけ会えるように努力をします。浮気は絶対にしません。今日ここに来てくれた観客の皆さん全員に誓います」

「はい」

「だから……今後もずっと俺の恋人でいてください。お願いします!」

いいタイミングで音楽が終わり、劇場は静寂に包まれた。

頭を下げた晴海の黒髪が、スポットライトに照らされて輝いている。

輝きはすぐに涙で滲み、瞬きをしたのと同時に再びクリアになった。

涙は晴海の手の甲にポタリと落ち、白い手袋に染みる。

詰まっていた息が整ったところで、言葉は勝手に出ていった。

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします!」

鼻声だったけれど、静寂した劇場によく響いた。

次の瞬間、客席からパーンという破裂音が無数に響き、紙テープが飛んできた。

音楽もテンポのいいものが流れ始める。

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