甘く響く
とりあえず
店の奥の方にあったテーブルに案内して男性を座らせた
向かいにレイが座り、ジーンはコーヒーを入れにキッチンへ向かった
そこでレイは気づいた
男性の胸に光る金のブローチ
何処かで見たことがあると思ったらリンリンによく似ている
ポーっとブローチを見つめていると男性が重苦しく口を開いた
「私はヴァイオレット家の使いのものです」
それを聞いてレイは驚く
ヴァイオレット家といえばこの辺では一番大きな財閥だ
それが小さな花屋の娘に何の用だろうか?
コーヒーを運んで来たジーンも聞いていたのか緊張が伝わってくる
「あの…そのヴァイオレット家の方が私なんかに何の…」
男性がそこでやっと顔を上げてレイを見つめた
端正な顔立ちに見つめられて
驚きと違う胸の高鳴りにレイは視線をそらした
「まず、ヴァイオレット家について少しご説明させていただきます」
そう男性が言ったところで
店にお客さんが入ってきた
レイが立ち上がろうとしたところをジーンに止められる
私が行くから、と、目で合図されてレイは座り直す
「ヴァイオレット家が財閥と呼ばれるまでなし上がったのは、ある夫婦とある花のお陰なんです」
ジーンが入れてくれたコーヒーを一口飲む
男性は言葉を続けた
「人口栽培は不可能と言われ続けたリンリンをどうにか品種改良し、一年中提供できるようにしました。愛を伝えるのに、季節など待ってられない。…そう、言ったそうです」
自嘲気味に笑う男性だが
誰が季節など待ってられないと言ったのか
そしてこの話は何が言いたいのか
レイには男性の言いたいことが見えてこない