ぽんぽんぼん
鼻を擽る甘い香り。
それと共に、
「森山さん」
そう私を呼ぶ声に慌てて顔を上げた。
「かっ、梶木君!」
顔を上げた瞬間、目に入ってきたのは梶木君で。
どうやら、梶木君はいつもはるるんが座っている私の前の席に腰を下ろして、私の方へと身体を向けているらしい。
だから、梶木君とバッチリ目が合っているという現状。
「寝てたの?」
「ね、寝てないよっ!」
寝たつもりはない。
けど、いつの間にか教室に居るのはもう私と梶木君だけになっている。
寝てた……のかもしれない。
梶木君は慌てて否定する私を見て、フッと鼻で笑うと、右手の人差し指を立てて自分の口元に当てる。
「口の横に涎の跡、ついてるよ」
「本当!?」
グイッと口元を手の甲で拭うと、クスクスという笑い声が聞こえてきた後に、
「嘘」
悪びれもなくあっさりとそう言ってしまう梶木君は、あの話をする前と何も変わっていない様に見える。
「嘘ですかい!」
私は突っ込むのでさえ、ビクビクしているのに。
「梶木君は、今まで何してたの?」
「先生にこき使われた」
眉間に皺を寄せてそう答える所を見ると、多分雑用を頼まれたのだろう。
だから、さっき教室に居なかったんだ。
「運、悪いですね……」
「森山さんも呼べば良かった」
「それは、御免被ります!」
「ウザい」
机に頬杖をついて、吐き捨てる様に言われたその言葉が、言われ慣れている筈なのに胸に突き刺さる。