彼は、魔法使い
「帰れ」と言われたから、スタッフルームに足を運んだのに、何故か直樹さんも付いてくる。


自分のロッカーから荷物を取り出すあたしの後ろから、あたしの髪に手を伸ばす、直樹さん。


直樹さんが掴んだ髪が、手からサラッと落ちていく。


「俺なら、お前にもっと似合うカットが出来る」


どんな顔をしているかわからないけど、声は自信満々に耳へと伝わってくる。


クルッと振り返り、直樹さんを見る。


「彼に、もう髪を切ってもらうことはありません。もちろん、直樹さんにも」


それは、彼らの腕の問題じゃない。


ただ、あたしの気持ちの問題。


「それは、俺のカットを見てから言え。バーカ」


「バカ」とか言う人間には、絶対に切ってもらうもんか!

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