あなたが作るおいしいごはん【完】

しかし

差し出されたその手を取る事をせずに

再び後ずさりしながら

私は首を横に振った。

「…ごめんなさい。
その手を私は…取れないです。
もう…私は…会いにはいけない。
薮嶋さんと寛子さんの期待には
もう……応えられない。

…私は婚約者が好きだから
これ以上…彼を裏切れない…。

…だから…ごめんなさい。」


そう謝った瞬間


『………何だよ。
黙って聞いてりゃ…ふざけんなよ!!』


突然の薮嶋恭平の怒鳴り声と共に

座ったまま両肩を掴まれた私は

「……キャッ!!」

……ゴンッ……ドンッ。

壁に強く背中を押し付けられた。

「……っ…痛い!!」

押し付けられた拍子に

後頭部と背中をぶつけた事で

一瞬痛みが走った。


しかし

薮嶋恭平は今までに見た事がない

鋭い眼球で私を睨みつけると

『…一緒に来るんだ。』

と、私の両肩を

かなりの力で掴み続けた。

「……薮嶋さん…痛い…離して。」

壁に押し付けられたまま

肩に食い込むような痛みに

私は顔を歪ませた。







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