あなたが作るおいしいごはん【完】

『………一緒に来るんだ。
“萌絵ちゃんを連れて帰って来る。”って
オフクロと約束したんだ!!

その為にこの家を何度も通って
遠くから見張ってたんだ。

やっと会えたんだから…。
やっと見つけたんだから…。

…なのに今さら
連れて帰らないワケにはいかない!!』


………怖い。


こんな薮嶋さん見た事がない。

小2までの付き合いだったけど

引っ越して行く前の“恭君”は

女の子に、小さな子に

とても優しい男の子だった。

それに…再会したばかりのあの時は

小さな頃の面影がまだ残っていて

こんな目つきでもなかった。


なのに今、目の前にいるこの男は

あの頃の薮嶋恭平とは違う。

再会して数日の間に

すっかり人が変わってしまっている。

私を無理やり捩じ伏せてでも

寛子さんの元へ連れて行こうとしている。

「…痛い…離して…お願い。
本当に…ごめんなさい。
私は…行けないよ。

………離して!!」

肩を掴まれた痛みに耐えながら

私はこの場から、この男から

逃げようともがき始めた時

『……ふざけるな!!』

再び薮嶋恭平の怒鳴り声が響いた。








< 146 / 290 >

この作品をシェア

pagetop