あなたが作るおいしいごはん【完】

冷たい目つきでクスクス笑いながら

『…君が悪いんだよ。
おとなしくオフクロに会わないから…。
俺を避けようなんてするから…。』

薮嶋恭平はそう言って

私を見下ろしていた。


…痛い。…怖い。…助けて。


声に出したくても

全身に広がって行く恐怖と

頬や肩に感じる痛みに口元が震えて

涙が一筋伝っていった。


そんな中で

………カズさん。

大好きなあの人の顔が浮かんだ。

私を愛していないけど優しくて

大事にしてくれる人。

おいしいご飯を作ってくれる人。


彼は私の様子がおかしいと

いつも気遣ってくれたのに

私はごまかし続けていた。


だからきっと

彼を裏切ったバチが当たった。

嘘をついたバチが当たった。

卑屈になっていたバチが当たった。


ごめんなさい…カズさん。

今さら謝っても

今さら後悔しても遅いのに

窮地に立たされている私は

彼の事ばかり考えてしまう。


『…俺にこんな事されても
俺にこんな痛い目に遭わされても
萌絵ちゃん…君はまだ
オフクロの所へ行くのを嫌がるの?』


薮嶋恭平はなおもクスクス笑いながら

身体が震えて

涙が流れる私の返答を求めた。



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