あなたが作るおいしいごはん【完】
涙が頬を伝う中で
両腕を掴まれたまま
恐怖と痛みが走る中で
「…ごめんなさい…。
寛子さんには…お世話になった。
話し相手…楽しかった…。
期待に…応えられたら
どんなに…良かったかと…思うけど。
…でも…私は…。
押谷和亮が好きなの!!
あの人の…優しさや
料理に対する…熱意とか
今の職業に就くまでの苦労とか
語り尽くせないくらい…素晴らしいし
あの人が作ってくれる
おいしいご飯が…私は好きなの…。
あの人に…愛されていなくても
政略結婚でも…私は…好きだから
もう……裏切りたくない!!
…だから、私は…。
寛子さんの期待には…応えられない。
薮嶋さんの初恋にも…応えられない。」
私はしっかりと薮嶋恭平に向かって
精いっぱいの返答をした。
しかし、その声は
……この男には届いていなかった。
『……ふーん。
萌絵ちゃん…君はとことん
俺達親子を嫌うんだね…。』
そう言ってこの男は
私の肩から手を離すと
『…だったら、俺は
君と先生の仲をとことん
壊してあげるしかなさそうだね。』
と、言いながら
自身のポケットから携帯を取り出した。