あなたが作るおいしいごはん【完】

『……カズ………さん。』

ぽつりと名前を呟くと

『…良かった…萌絵。
気がついてくれた…。』

彼はホッとしたような表情になって

大きく息を吐いた。


…それにしてもここは?


もう一度左右に目だけを動かすと

ここは多分病院だって事と

私はそのベッドで寝かされて

腕に点滴や脈拍測定器を

装着されている事がわかってきた。

「…ここ…病院?
どうして…私…。」

ここにいるの?と聞こうとすると

『…ああ…病院だよ。

萌絵…倒れたんだよ…俺の腕の中で。
無理に動かすのは心配だからって事で
救急車でここまで運ばれたんだよ。』

そう言って

彼は私の手の甲を

自分の頬にピタッとくっつけると

もう一度息を吐いて

『…目を覚ましてくれるまで
心配で仕方なかった。

…あの男に破かれた
ブラウス姿の萌絵を改めて見た時
検査後の医師に呼ばれて
掴まれた痕が鬱血している
萌絵の両肩を見せられた時
……胸を掻き毟られる想いだった。』

そう切なげな声で

そっと呟く彼の表情には

やや疲れの色が出ていて

私が眠っていた間に泣いていたのか

目は若干充血していて

瞼もやや腫れていた。




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