あなたが作るおいしいごはん【完】

その時

彼の顔が段々と近づいて来て

触れ合う数センチのところで止まった。

瞳と瞳がぶつかり合い

ピクッと反応した私に彼は言った。

『…謝らなくていい。
萌絵は何も悪くないから…。
迷惑かけられたなんて思っていないし
俺の仕事に支障が出るとかなんて
全然思っていないから
俺の婚約者失格なんて
そんな悲しい事を言うな…。』

「…カズ…さん。」

『…俺は相手が萌絵だったから
お見合いと結納の席で
萌絵の好きなモノを特別に用意した。
萌絵の為に婚約指輪を特注した。
毎日萌絵にご飯を作りたいと思うし
食べさせたいと思ってる。
萌絵を傷つけたあの男に腹が立って
我を忘れて掴み掛かろうと
してしまった。
倒れた萌絵を見て
胸を掻き毟られるような気持ちだった。
今こうしてそばにいたくて
明日も速水達に任せてしまった。

……全て…萌絵だからだよ。』

そう優しく囁かれた後

私の唇にそっと彼の唇が落とされた。


ここは病院のベッドなのに

ロマンチックな場所ではないのに

点滴と脈拍器が装着されているのに



……私は彼に優しいキスをされた。



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