【BL】君と何処へ行こうか?
組長になり仕事量が格段に増えた澤村は、逃亡癖がついたらしい。
それを毎回連れ戻すのが僕の役割として定着してきつつある。
迷惑な話だけど。
屋敷内はあらかた探した。
あと見ていないのは……中庭ぐらいか?
仕方なく中庭へと足を向ける。
一見人影は見えない。
ふと、松の木の下。僕がいつも寝ている場所を覗き込む。
「…………いた。」
普段僕がそうしているように、探し人は気持ち良さそうに寝息を立てていた。
「どんだけ探したと思ってるんだか。」
鼻でも摘まんで起こしてやろうかと思ったが、あまりにも穏やかな顔で眠っているから、手を止めて隣に腰掛けた。
風が彼の前髪を揺らす。
柔らかそうなその髪に触れてみたくて、手を伸ばした。
「柔らか……」
「ーーここは気持ちがいいな。」
「ーー!?」
突然動いた口に驚き手を引っ込めた。
「お、起きてたの?」
「今起きた。」
「そ。」
悪いことしていたわけでもないのに、心臓がバクバクと跳ねる。
「仕事放って逃げてきたんでしょ?戻るよ。」
「少しぐらい良いじゃないか。麻斗は俺が資料に追われてるとき、ここでのんびり寝ているだろう?」
「……なんで知ってるの?」
「以前見かけてな。声を掛けようと思ったが、気持ち良さそうに熟睡していたから止めておいた。可愛い寝顔だったぞ。」
目を細めて笑う顔は悪戯好きの子供そのものだ。
「悪趣味……」
「本当のことなのに。」
「はいはい。いいから戻るよ。」
立ち上がろうと膝に手を掛けたとき、その手を掴まれ、引き寄せられたためバランスを崩した。
澤村の隣に横になるように転がされ、しっかりと抱き締められる。
「なっ……やめろ!」
「少しぐらいいいだろう。君は温かくて抱くと気持ちがいい。」
「はーなーせ!中に入ればいいだけだろう!」
「全く可愛いげがない奴め。」
弛まない拘束から逃げたくて力一杯腕を伸ばす。
やれやれ、と呟きが聞こえたあと額に柔らかな感触を感じ、ようやく身体が解放された。
「い、今一体何を………」
「ん?愛情表現と言うやつだ。」
「なっ………」
「あははは、麻斗でも顔を真っ赤にさせることがあるんだな。10年一緒に居るがそんな顔は初めて見た。」
澤村はそれは満足な顔をして立ち上がる。
「さて、そろそろ戻るとしよう。麻斗は昼寝でもしていくといい。そんな顔で歩いていたら、襲われるかもしれないからね。」
「……馬鹿じゃないの?」
「俺はいつでも本気だよ。」
ニヤリと笑って澤村は立ち去っていく。
背中が見えなくなって、僕は仰向けに転がり目を閉じた。
だめだ、これ以上好きになってはいけない。
これ以上は辛くなるだけだから。