【BL】君と何処へ行こうか?
思いが溢れてしまわないように押し隠して、それでも時折顔を覗かせては、また引っ込める。
そんな事を繰り返し、また月日は流れていく。
「以前頼んでいたスーツが出来上がった。明日、一緒に受け取りに行こう。」
採寸を受けてから三ヶ月が経ち、澤村は嬉しそうに言った。
「明日は麻斗の誕生日だ。間に合ってよかった。」
「………もう誕生日なんて嬉しい歳じゃないよ。」
「いくつになっても俺は嬉しいさ。麻斗がこの世に生まれてくれた日だからね。」
恥ずかしげもなく良く言う……。
「一緒に行くのはいいけど仕事の方は大丈夫なの?」
「大丈夫さ。明日のために死ぬ気で終わらせた。」
「………普段からそのぐらい頑張ってくれればいいのに。」
「あーあー、きーこーえーなーいー。」
また子供みたいな事言って。
呆れて溜め息をついたのに、澤村は嬉しそうに笑っている。
「……何?」
「いいや、幸せだなって思っただけだよ。こうやって麻斗と一緒にふざけあえて。」
「………小さい幸せだね。」
「幸せの大きさは人それぞれさ。」
鼻唄なんか歌っちゃって。
たかが僕みたいな人間の誕生日で……。
明日は………少しだけ素直になってみようか。
心から笑えるかは分からない。
もう何十年も笑っていないから、笑い方が分からない。
それでも自分が今幸せなのだと、少しだけ伝えてみてもいいだろうか……。
「さて、明日のためにもうひとつだけ仕事が残ってる。」
「うん。頑張って。僕は部屋に戻るよ。」
「ん、明日は朝から出掛けるから早めに休むんだよ。」
遠足前夜の小学生みたいだ。
「はいはい。また明日ね。」
「また明日。」
部屋に戻り、鏡に写った自分の顔を覗く。
つり目に加えて眉間のシワ。
大層人相が悪い。
試しに口角を上げたが、かなり不気味だ。
「………やめよう。こんなの似合わない。」
ぽいっと鏡を放り投げ、床に転がる。
程なくして睡魔が襲う。
「布団………ま、いいか………。」
僕はそのまま深い眠りに落ちた。