【BL】君と何処へ行こうか?
「ーー斗、麻斗」
揺さぶりと呼ぶ声に意識が覚醒する。
ぼやけた視界に写るのは澤村の姿。
「ふぁ……あれ、僕そんなに寝てた?」
彼が僕より早く起きるのは珍しい。
いつもなら僕が起こしに行くと言うのに。
「いや、まだ7時前だ。」
時計を確認すれば確かに7時になろうとしている所だった。
「珍しく早起きだね。どうしたの?」
「ああ、その………」
珍しく歯切れが悪く、彼は目を伏せた。
「何?」
嫌な予感に胸がざわつく。
「………すまない。急な仕事が入ってしまってな。一緒にスーツを受け取りに行けなくなってしまった。」
ようやく開いた口から出た言葉。
「………で?」
「……だからすまないと。」
「本当にそれだけ?」
違和感を感じる。
確かなことは分からないけど。
何か変だ。
「それだけってことはないだろう?俺は楽しみにしてたんだよ。」
「………そんな顔するほど?」
自分では気付いていないのかもしれないが、彼の顔はいつにも増して悲痛な表情だ。
「この世の終わりぐらい悲しいよ。」
「………ふぅん。」
「あ、疑っているな?」
「まぁね。」
疑いの目を向ければ澤村は困ったような顔して、僕の頭に手を伸ばし、わしゃわしゃと撫で始めた。
「わっ、何するんだ!?」
「あははは、ごめん。本当に悪いと思ってるんだ。せっかくの誕生日なのに。」
手を払い除け、彼の顔を見れば眉尻を下げていた。
「…………ケーキ。」
「え?」
「夜、ケーキ食べさせてくれたら許す。」
「ふっ、分かった。用意しておく。」
澤村立ち上がり、部屋から出ていく前に一度振り返った。
「そうだ。スーツを受け取ったら、帰りにこの間の花屋に寄ってきてほしい。物を頼んであるんだ。」
「はいはい。」
「それから………」
「………?」
言葉を切って、彼は僕を真っ直ぐに見る。
「誕生日、おめでとう。」
「あ、りがとう……」
「じゃあ頼んだよ。」
彼はそのまま部屋を出て行ってしまった。
出掛ける前、一度彼の部屋を覗いたけれど姿はなく、僕は一人町を歩いた。