【BL】君と何処へ行こうか?
町では僕にさえ礼を言う子供がいた。
なんと返していいか迷ったが、頭を撫でてやれば笑って走り去っていった。
10年前、暴れまわっていた僕を知っている大人たちは、未だ遠巻きに僕を見る。
そんな視線は気にしない。
僕を認めてくれなくてもいい。
僕は彼さえ認められればそれでいい。
彼が変えた景色を見れるなら、それでいい。
スーツの受け取り時、最終確認と着用を頼まれ、袖を通した。
着慣れないが、その着心地は悪くない。
「もしよろしければ着てお帰りになられますか?」
店主の言葉に、少し悩んで頷いた。
このまま帰って澤村に見せてやろう。
どんな反応をするだろう、と胸が鳴った。
彼の事だからまた馬鹿みたいな顔で笑うんだろうね。
「ありがとうございました。またお待ちしております。」
店主に見送られ、店を出る。
次は花屋だったか。
澤村と歩いた通りに出て、花屋の前で足を止める。
中にはあの女性の姿が見えて、声を掛けた。
「すみません、澤村の代理で受け取りに来ました。」
女性は僕を見て、ああと笑った。
「いらっしゃい。少し待っててくださいね。」
一旦店の奥へ入っていき、すぐに花束を抱えて戻ってきた。
「お待たせしました。」
女性が持ってきたのは、この間と同じ花で作られた少し大きめの花束だった。
「麻斗さん?でいいのかしら?」
「え………あ、はい。」
「お誕生日おめでとうございます。これ、澤村さんからメッセージカードです。」
花束の真ん中に添えられていたカード。
「これって僕にって事……?」
「ふふふ、そうですよ。澤村さん一生懸命選んでらしたんですから。」
いつの間に………。
抱えた花から香る優しい香り。
「これ、なんて花なんですか?」
「これはガーデニアと言うんです。」
「ガーデニア…」
「花言葉は『喜びを運ぶ』」
彼らしいな。
「大切にされてますね。澤村さんに」
「………そ、うですかね。」
「少なくとも私にはそう見えますよ。」
ニコッと微笑まれ、急に恥ずかしくなった。
「ありがとうございました。またお越し下さい。」
もう一度お礼を言って、僕は店を出た。
帰り道は少し急ぎ足だった。