【BL】君と何処へ行こうか?
「早かったね、もう終わったの?」
「ああ、継承式といっても形だけで、盃を交わすだけだからな。御披露目はまた後日だ。」
「そう。」
「それより、麻斗は何をしていたんだ?俺以外の奴と話しているなんて珍しいじゃないか?」
「別に何でもないよ。」
アンタは知らなくていい。
小さな事に躓かなくていい。
後ろは僕が全て摘み取るから、アンタは前だけを見て、そして約束を果たせばいい。
「……麻斗、」
「分かってるよ。力の解決は何も生まない、だろ。もう耳にタコだ。」
「それでも何度でも言う。」
「………分かったよ。」
澤村 一樹は甘い男だが芯は真っ直ぐで絶対に曲げない。
悪く言えば頑固者だ。
「そうだ、これをやろう。」
差し出されたは長方形の白い箱。
「何これ?」
「紅白饅頭だ。甘いもの好きだろう?」
蓋を開ければ赤と白の饅頭が二つ並んでいた。
「ついでにお茶がほしい。」
「我が儘な奴だ。それじゃあ俺の部屋で食うことにしよう。」
歩き出した背中を追う。
僕よりも小柄なくせに、この背中は大きい。
僕はこの10年ずっとこの背中を見てきた。
この背中を通じて、彼の世界を見てきた。
「麻斗、こっちへ来い。」
「え……」
「後ろではなく隣を歩けばいい。ほら、」
手を引かれ隣に並ぶ。
「茶は何がいい?」
「………緑茶。」
「麻斗は本当に緑茶が好きだな。」
「………仮にも7代目組長がこんな簡単に人を隣に並ばせたらダメでしょ。」
「どうして?俺は隣に並びたい。並んで同じ景色を見たい。」
この人は、だから甘いと言われるんだ。
けど、だからこそ僕はここにいる。
「仕方ないね。アンタの隣に立てるのなんて僕ぐらいだよ。」
「ああ、頼りにしてる。」