【BL】君と何処へ行こうか?
町を歩けば澤村は声を掛けられる。
今話し掛けてきた女性は、店の立ち退きを他の組から揺すられていた。
澤村は店を買い取り、今まで通り経営出来るよう女を助けた。
「一樹さん、いつもありがとうございます。もしよかったらこれを」
女性が差し出したのは小さな花束。
店の商品だろう。
「ありがとう、三上さん。今日も素敵な花だ。」
「この花たちが咲いていられるのも一樹さんのおかげですから。」
「俺だけじゃ何も出来ない。ここにいる麻斗のように組の仲間が居たから、みんなを助けることが出来る。」
「ええ、一樹さんが組長になられてから澤村組は変わりましたわ。今では町の用心棒ですもの。」
クスクスと笑う女性に、澤村も笑った。
「そう思ってもらえるなら光栄だ。では、また。」
花の香りを楽しみながら澤村はまた歩き出す。
「麻斗、いい香りだ。ほら」
ずいっと顔の前に差し出された花束の匂いをかぐ。
しつこくない優しい香りだ。
「……悪くないね。なんて花?」
「あ、聞くの忘れた。次行った時に聞いてみよう。」
楽しげに笑う彼の横顔を見つめる。
ずっと側にいた。
悩み、苦しみ、それでも笑うことを止めなかった。
これから先もこうやって笑い続けて欲しいと願う。
どうやら僕は、彼を好きになってしまったらしい。
それを告げることはしない。
決して報われない想い。
それでも構わない。
彼が笑っていられるなら。
一歩進めばまた別の人間が感謝を述べる。
老若男女関係ない。
子供でさえもヤクザの組長である澤村になついてしまう。
そんなもんだから目的の店に着いたのは家を出てから三時間後。
そんなに距離があるわけでもないのに。
「……全くアンタと出掛けると無駄に時間が掛かる。」
「いいじゃないか。町の人との交流は大切だ。」
既に疲れ果てた僕とは違って澤村は元気そうだ。
「ほら、採寸しておいで。」
店員に連れられ、僕は店の奥へと案内される。
こういう店は、本当慣れない。