桜が咲く頃~初戀~
笑いながら香奈は紀子の立つ土間に降りた。その時香奈は大阪にいた頃の事が鮮明に思い出されて紀子の背中を見ると息を止めた。


紀子の作るお味噌汁の香りがおばぁちゃんの作るお味噌汁の香りと重なったからだ。


「何で今まで気が付かんかったんやろ?」


香菜はそう思うとすぐに紀子が香奈の気配に振り返り少し照れくさいのか?まだ化粧をしていない顔を真ん中にすぼめた。おばぁちゃんが照れくさい時によくやる顔だった。


『おはよう。昨日は香奈が作ってくれたから今日はお母さんが作ったけどいいかなぁ?』

そう言って紀子は冷蔵庫を開けて右手に持っているお味噌の容器を見た。

『このお味噌、全然味が変わらんね〜大阪の家のお味噌も同じおばぁちゃんが作って毎年送ってくれるんよ』


そう言って冷蔵庫に仕舞おうとしているお味噌の容器を持ち上げて香奈に見せた。

『そうやったんや。全然気ぃつかへんかった』


そう香奈は答えると紀子が作ったお味噌汁の香りをまた、胸いっぱいに吸い込んだ。何だか幸せな匂いがすると思いながら香奈は土間の真ん中にある食卓の椅子に腰掛けた。

『なぁ、お母さん。おばぁちゃん所、何時に行くん?』

先程みじん切りにしていた玉ねぎを炒めている紀子に香奈は声を掛けた


『そうね〜退院が午後の2時過ぎって先生が言っていたから早めに行って待っていても良いけど。香奈は何かある?』

紀子は卵を5つ割りながらそう答えた。玉ねぎだけのオムレツを作るのだろう。おばぁちゃんの作る朝食と同じなのも香奈は嬉しいと思った。
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