ストレイ・キャット☆シュ-ティング・スタ-
「ここに停めておけば大丈夫」

 マンションのお客様用ガレージに先客があったので、敷地内の空いている場所に車を停めて、エレベーターに乗り込んだ。

「うわぁ、きれい……」

 ガラス張りのエレベーターから見える東京の夜景。美しいネオンライトに声を上げる久留美。

「このマンションの、自慢のひとつなんだ」

 ぼくは得意気に、今ふたりで走ってきた道順なんかを説明する。そして部屋の前まで案内。夜中だから、人目を気にすることもないのだが、そそくさと急いで久留美を部屋に入れる。

「ちょっと待ってて」

 玄関口に久留美を待たせて、部屋の中を大急ぎで片付ける。読みかけの雑誌や脱ぎ捨ててある洋服をベットルームに投げ込み、リビングに久留美を案内。黒いロングブーツがお辞儀をするように壁にもたれ掛かる。

「きれいやん、お部屋。それに広い」

 部屋の中を眺めながらつぶやく久留美。ぼくはソファーに座ればと声を掛けて、ちいさなホットカーペットとひざ掛けを用意した。

「ありがとう」

 緊張のあまりか、ぼくは残っていた食器の洗い物を始める。

「何か買ってくればよかったね」

「あぁでも、お腹いっぱいやわ(笑)」

 まさか、こんな展開になろうとは夢にも思ってなかったので、どう接していいのか戸惑っている……。

「あ、それ飲みたい、珈琲」

 キッチンカウンターに置かれていたネスカフェのボトルを見付けた久留美がいったので、お湯を沸かし、珈琲をふたつ作る。香ばしい香りが部屋中に満ちていく。
 ぼくは、珈琲をふたつ持って久留美の隣に座った。久留美は上着をソファーの背もたれに掛け、ブラウス姿になっていた。

「はい」

「ありがとう」

 ふたりは並ぶようにソファーに座り、珈琲カップを片手に色々な話しをした。歳が近いことも手伝ってか、同じバンドに熱を上げていたこともわかった。
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