君と私を、夜空から三日月が見てる
東郷さんは、冷静だけど低くドスの聞いた声で言葉を続けた。

「柿坂、今からここで、800字程度の反省文を書くように」

「はい・・・・」

柿坂君は、しょぼーんとした顔をして、東郷さんの差し出した書類を手にとって、デスクの脇にある椅子に座って、なんだか手馴れた様子でデスクの引き出しから筆記用具を取り出す。

可哀想・・・なかなか帰ってゆっくり眠れないね?
なんて思いながら、そんな柿坂君の背中を見てると、突然、東郷さんが私を呼んだのだ。

「長谷川君」

「あ・・・は、はいっ」

「君には記入してもらわないとならない書類がある、こっちへ」

そう言うなり、東郷さんはデスクの上においてあった書類をとって、ゆっくりとデスクを立った。

「はい」

反省文を書き始めた柿坂君が気になりつつも、私は、ウィンドブレイカーを引っ掛けてる東郷さんの背中を追って、清掃資材室へと足を踏み入れる。
きちんと整頓されて、種類ごとに並べられた清掃資材はかなり大量。
清掃さんて、こんなに沢山の洗剤とか資材使うんだ・・・・
それに気がついて、私は、すごく新鮮な驚きを覚えた。

沢山の資材が置いてある一角に、テーブルとパイプ椅子が置いてあるスペースがある。
どうやらそこは、作業員さんたちの休憩場所らしい。

「そこに座ってくれ」

東郷さんは、そのテーブルに書類をおきながら、目配せしてくれる。
私は素直に、その指示にしたがって、パイプ椅子に座った。
そんな私の目の前に、東郷さんはぱっと書類を置いてくれて、ボールペンを差し出してくれる。
私は、はっと東郷さんの顔を見た。
すごい怖い印象のあった東郷さんは、ごく自然な表情をして唇だけで小さく笑っていた。

「気の毒だったな。
エテルノ事務局の人間から、詳しい話は聞いてる。
まぁ、事務屋にはちょっとキツイ仕事かもしれないが、慣れたらそれなりにおもしろい仕事なはずだ。
君を引き受けたからには、きちんと仕事も教えるように、柿坂には念を押しておく。
そのうち事務仕事も振ることになるだろうから、その時はよろしく頼む」

「・・・・・・・。」

私は思わずきょとんとしてしまった。
3秒後・・・私はそこで初めて、東郷さんが全ての事情を把握して、私をこの部門に受け入れてくれたことに気づいた。
人事部の『朝青龍』が色んな意味で怖いのはみんな知ってる事実だし、あの人に睨まれたら、どこの部署の人間もただじゃすまないのも、きっと、東郷さんは知ってたんだろうね・・・
『朝青龍』に睨まれた人間なんて、確かに、どこの部門でも受け入れたくなかったのかも・・・
そう考えると、ある意味で、この人は私の恩人なのかな・・・


「ありがとう・・・ございます。
出来る限りは、がんばらせていただきます・・・
ご迷惑・・・おかけします・・・」


この人、怖いけど・・・
中身は、すごく、優しい人なのかもしれない・・・

私は、なんか感動を覚えて、今にも泣き出しそうになったから、慌てて書類の記入を開始した。

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