君と私を、夜空から三日月が見てる
                   ☆

「え?!ここに住んでるの!?」

私は、柿坂君の自宅という建物を目の前にして、叫ぶようにそう聞いてしまった。
柿坂君は、無邪気に笑って答えて言う。

「ですよ!
もうかれこれ、一年ぐらいここに住んでますよん」

三日月の下に浮かび上がるのは、見るからに建築資材置き場と思われる一軒の大きな倉庫。
柿坂君の自宅・・・であるその倉庫は、ものすごーく広い空き地のど真ん中にぽつんと建ってて、周りは見事なほどの林で、人の気配はおろか住宅の明かりすら全く見えない!

私はきょとーんと、なんとなく薄気味悪いその倉庫を見上げる。

「入り口はこっちなんだ」

柿坂君は、なんの悪気もなさそうにそう言って、砂利の敷き詰められた地面を建物の脇の方へと歩いていく。
薄暗い中に現れたのは鉄骨の階段。
彼は軽快は足音を立てて、その階段を上へと登っていく、私もあわててその広い背中を追いかけて、階段を登っていった。
階段を登り切った先には、アパートの玄関のようなドア・・・・
柿坂君は、着ていたスタジャンのポケットから鍵を取り出して、なんの躊躇いもなくドアを開けた。

「どうぞ!
仕事忙しくて片付けてないから・・・散らかってるけどさ・・・
送ってもらったお礼にコーヒーぐらい淹れますよ」


中の電気を点けながら、彼はなんとなく気恥ずかしそうにはにかんで笑った。
私は、その表情に母性本能をきゅんとくすぐられて思わず赤くなる。

「ああ・・・お、お邪魔します。
・・・・・・え!?」

蛍光灯に照らされた部屋の中を見回して、私は再び驚いてしまう。

「なに、ここ広っ!!」

薄気味悪い倉庫の二階には、なんと、12畳ほどの広い部屋があり、しかも、バス・トイレ・キッチン付き!
ベージュと黒のちぐはぐな色だけど、きちんと絨毯が敷かれていて、柿坂君が脱ぎ捨てたであろう服がぽつんぽつんと落ちてる向こうには、クイーンサイズかと思われる大きなコイルマットレスが置いてある。
部屋の中央には白いテーブル、その上にはノートPC。
テーブルの向かいのテレビラックに42型テレビ。
その脇の棚には、ちょっと型遅れな感じのオーディオ機器があって、アンティークなインテリアランプまで完備してる。
天井には、明かり取りなのか小さな天窓。
ベッド脇の窓の向こうには、ベランダまで完備されてる様子。
外見が建築資材倉庫じゃなければ、私のアパートより広い!
ぽかーんとしてる私に向って、柿坂君は可笑しそうな顔つきをして得意げに言う。

「広いでしょ?
ここ、光熱費以外はタダなんっすよ」

「え!?うそ!?」

「ほんとっすよ?家賃は無料!
でも昼間は、表で重機が動いたり資材の搬入搬出があったりでうるさいんだけどさ。
まぁ、座ってくださいよ」

「あ・・・うんっ」

私は、柿坂君に言われるままに、白いテーブルの隅っこ素直に座った。
もう一度、部屋の中を見回して、そして、重要な事に気づいてしまった・・・

一人暮らしの年下の男の部屋に、めっちゃ上がりこんでるよ私!!?

そう思ったら、急に、心臓の鼓動が大きくなってきた。







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