ファンレター



必死で腕を抜こうとしても、一人では太刀打ち出来ない。

こんな時、多美さえいてくれれば…



暗い部屋を恐れる子供の頃に戻ったようだった。

小さなライトが、余計に恐怖を掻き立てる。



私はこのままどうなるんだろう。

怖くて、怖くて……



誰かっ……





「やぁ、良かった!来てくれてたんだね」



いきなり反対側の腕をつかまれて、バランスが崩れそうになる。

グリーンのライトが一周まわって、再びその声の主に当たった。



「あ、カメラマンさん!」



あのカメラマンだ。

よかった、助けてもらえるかもしれない。

私は夢中で彼にしがみついた。



「あ…、桂さんじゃないですか。なに?この子知り合いなの?」



女の子達が、カメラマンに問いかける。

このカメラマンの名前は、桂というのか。

やっぱりこの人が大北さんではなかった。



「もちろん、大事な今日のお客さんだよ。悪いけど借りてくね」



桂カメラマンは、私の肩をひょいっと抱いて、奥の方へと進んで行った。

そして優しい声で耳打ちしてくれる。



「よく来れたね。もしかして無理なんじゃないかと思ってたんだけど」


「あの……」



やっと怖さから開放されて。

なんだかよくわからないけど、足がふわふわして。



ホッとしたからか……、我慢が出来なくて私の目からは涙がこぼれ落ちてしまった。



「え、泣いてるの!?わー、困ったな」




< 117 / 218 >

この作品をシェア

pagetop