ファンレター
必死で腕を抜こうとしても、一人では太刀打ち出来ない。
こんな時、多美さえいてくれれば…
暗い部屋を恐れる子供の頃に戻ったようだった。
小さなライトが、余計に恐怖を掻き立てる。
私はこのままどうなるんだろう。
怖くて、怖くて……
誰かっ……
「やぁ、良かった!来てくれてたんだね」
いきなり反対側の腕をつかまれて、バランスが崩れそうになる。
グリーンのライトが一周まわって、再びその声の主に当たった。
「あ、カメラマンさん!」
あのカメラマンだ。
よかった、助けてもらえるかもしれない。
私は夢中で彼にしがみついた。
「あ…、桂さんじゃないですか。なに?この子知り合いなの?」
女の子達が、カメラマンに問いかける。
このカメラマンの名前は、桂というのか。
やっぱりこの人が大北さんではなかった。
「もちろん、大事な今日のお客さんだよ。悪いけど借りてくね」
桂カメラマンは、私の肩をひょいっと抱いて、奥の方へと進んで行った。
そして優しい声で耳打ちしてくれる。
「よく来れたね。もしかして無理なんじゃないかと思ってたんだけど」
「あの……」
やっと怖さから開放されて。
なんだかよくわからないけど、足がふわふわして。
ホッとしたからか……、我慢が出来なくて私の目からは涙がこぼれ落ちてしまった。
「え、泣いてるの!?わー、困ったな」