ファンレター
しばらくすると、コンコンと扉がなる。
入ってきたのは、大北さん。
「ごめん、見失っちゃって。桂に見つけてもらってよかったよ」
でも私は、誰かに見られようと、十から離れる気になれなかった。
もう、離したくない。
「大北さん、どういうことですか?」
私が現れたことに、まだ驚きを止められない十。
私を胸に抱いたまま、帽子をはずした。
「ゆっくり話したいけど、まず出番だから。表出て。代わりにコイツ付けとくし」
大北さんの言葉に、扉の向こうから顔を出す桂カメラマン。
「悪いね、あんまり時間なくて。終わってからゆっくり時間作るから、しばらく僕で我慢して」
十の肩をゆっくり引き、私をソファに座らせると、安心しろと言うように桂カメラマンは十に相づちをした。
十は大北さんの横に立ち、シャツの襟元を正す。
「すぐ戻るから、待ってて」
あんなにイライラしてた子どもっぽい笑顔は、いつの間にかこんなに頼もしく見えてた。
私だけが見てきた景色は、今みんなのものになる。
こうやって、私だけの知ってる十が減っていくんだな。
そして、私の知らない十が増えていくんだろうな。
部屋の時計が、8時を知らせた。