ファンレター
「修学旅行中?」
深くかぶった帽子と変装用のメガネが、十の魅力を引き立てる。
悔しいけど、かっこいい。
時間なんて関係のない都会の街。
いつまでも空は明るかった。
「手紙、読んでなかったの?」
「え、送ってくれてたの?気がつかなかったな。ていうか、ゆっくり見てる暇ないからさ。家の方送ってくれればいいのに」
「だって家の方の住所知らないし」
十の母親が、私にまで隠すほど息子をファンから守ろうとしてるんだ。
簡単に聞くことなんてできなかった。
「じゃあ、教えるよ」
「ほんと!?でも……」
聞くことで、十の足を引っ張ってしまいそうな気がした。
それに、十の母親の気持ちを無視するようで。
素直に聞く気になれない。
「やっぱり聞くのやめとく。後になって、教えなきゃよかったーとか後悔されたくないし」
「なんだよそれ。ファンレターなんか送ったって、本当になかなか読めないんだぞ?」
「いいの。どうせファンの一人だし」
「……」